海外出張結果概要報告書

研修管理課


英語版 (English)


調査目的 海外教育調査研究(シンガポール班)
テーマ

シンガポールにおける教科指導、教員の研修等についての調査
出張者
職氏名








・大垣市立興文小学校教諭
  小河 豊
・関市立旭ケ丘中学校教諭
  寺澤徹夫
・岐阜県立中津高等学校教諭
  丹羽清徳
・岐阜県立不破高等学校教諭
  小椋博文
・岐阜県教育委員会学校支援課指導主事
  酒井俊亘
出張期間
平成14年9月29〜10月6日


(1)教育省(MOE)
(2)国立教育研修所(NIE)
(3)成康中学(SENGKANG SECONDARY SCHOOL)
(4)現職中学校教師との座談会
(5)シンガポール・ポリテクニク(Singapore Polytechnic)
(6)自治体国際化協会(CLAIR)

主な視察先 出 張 の 成 果 成果の活用
(1)教育省
(MOE)





































































●概要
シンガポールでは、教育省が教育行政全般を、直接管轄・指導し、小学校、中学校、ジュニア・カレッジ、大学予備センター及び教育学院における管理や運営を指導している。
●教育制度
(1)徹底した能力主義:
小学校4年生での能力別のクラス分け試験、小学校卒業試験(PSLE)、中学校卒業時試験(Oレベル試験)、高校卒業時試験(Aレベル試験)の成績によって進路が決められる。
(2)二言語主義:
シンガポールでは、中国系、マレー系、インド系、その他の複数民族で構成されているため、共通語となる英語のほか、それぞれの民族の文化的な背景のアイデンティティを確立するために母国語も学んでいる。
(3)実学主義:
将来において応用実践的な側面をもつ語学、数学、自然科学が重視されている。
・特別プログラム:通常の教育課程以外に次のような特別プログラムを設定している。
@学力のトップ10%に対する英才教育
A学力レベルに達していない者への学習サポート
B芸術、音楽、語学の特別プログラム
C自然科学の研究プログラム
●教育改革
シンガポールでは、技術の習得に力点をおいた教育を推進してきたが、今後は人と人とのコミュニケーションをとりながら複数の技術を習得する能力の開発という視点を重視して教育改革を進めている。
これを受け、自ら知識を増やす力を身に付けた子供の育成に向けて次の6つの戦略を生み出している。
@様々な児童生徒のニーズに対応する教育構造
・試験を廃止した6年間のプログラムを作成
A最適な学校環境作り
・複数の小学校で共同して、ミュージックセンターなどを建造
B5年ごとのカリキュラムの見直し
・道徳教育、国家建設、情報収集力を身に付けることを目指す
C質の高い教育の提供
・優れた教師を確保するために博士号を習得する機会の設定や、昇格を早めるなどの優遇措置の実施
D教育の拠点化
・海外の教育機関との連携、他国の大学の留学生の積極的な受け入れと新校の設立
EITの導入による事務処理の最小化、効率化  ・モデル校22校に対し、パソコンを小学校6人に1台、中学校5人に1台、教師2人に1台の設置、プログラム開発、授業へのITの導入
●教育の成果
・限られた国土、乏しい資源、多民族社会というマイナス的な条件を背景に、人材育成こそが重要な国家発展要因ととらえ、特徴ある教育制度で成果をあげてきた。
具体的な成果として次のものが挙げられる。
@能力別の教育制度の実施による落第率の減少(小学校・中学校の平均で10分の1)
A高等教育の習得率の上昇
BTIMSS試験(1999年)における数学1位、理科2位の成績
●近年の具体的施策
@ITマスタープラン
・5年間10億ドルをかけてのITに関わる環境整備
Aプライム(PRIME)
・7年間45億ドルをかけての古い学校設備の再構築
Bスクールエクセレンスモデル
・各学校の特色ある教育活動への自己評価活動
Cカリキュラムの見直し
・学習内容の3割削減による思考力の育成
D教員の勤務条件の整備
・教員の給与や諸条件の見直し

(人的ネットワーク)
・Alexander Ho 氏(PublicRelations officer)

◆教育省での調査研究の様子
●日本においてこのような徹底した能力別学習を導入することは現実的ではない。しかし、子供達に着実な学力を身に付けさせるという点で、現在行われている少人数指導の中でコース分けをさらにきめ細かく設定したり、特別プログラムとして学習遅延者へのサポート体制作りをしたりすることは可能であると考えられる。
●シンガポールにおける英語習得率の高さの要因は日常生活での活用が第1に挙げられる。教育現場の限られた世界の中でも少しずつ英語に触れる機会が増えるような環境作りが必要である。
●数学教育で効果を上げているスパイラル方式のカリキュラムや、体験的問題解決的な学習を進める際のプロジェクトワークのような実践に学ぶべきことが多い。

























 
(2)国立教育研修所
(NIE)



































































●概要
国で唯一の教員養成のための専門教育やトレーニングを行っている。1950年代には教員養成大学であったが、1991年にNTU(ヤンナン工科大学)の一機関となった。1991年以前は、学位を与え るだけであったが、現在は現教職員の研修も行っている。
●教員になるための過程
@教育省の面接を受ける。
A試験に合格したら、教育省の実習生のポジションを得る。
BGCE−Aレベル試験の成績によって、4つのプログラムに振り分けられる。
C研修期間は教育省から給料及び授業料が支払われる。
D研修の評価は、レポート提出等で行っている。
E研修期間中に2週間の教育実習を受ける。
F学校現場で実際の授業を行い、教員としての資質、適正等が審査される。
GNIE卒業後は必ず教員になり、3年間は教育省の管轄内で働かなければならないことになっている。
H卒業後3年の間に教員を辞めることになったら、それまでに支払った費用の一部を政府に返す。
●教員資格認定の3つのコース
@Aレベル試験合格者またはポリテクニック卒業者を対象としたコース
・就学期間は、一般教員、体育教員共に2年間
A大学卒業者を対象としたコース
・就学期間は、一般教員が1年間、体育教員が2年間
B教員認定だけでなく人文または理科の学士号の取得が可能なコース
・就学期間は、4年間
●教員研修の5つの目的
@教員の知識のアップグレード
・教科書の内容も変わっていくため、それに対応する。
A教育方法のアップグレード
・児童生徒の教え方をより良いものにしていく。
Bジェネレーションギャップがあっても対応できるように教員に必要なスキルの習得
・社会の変化が激しく、カウンセリングなど、若い世代に対応できるスキルを身につける。
C海外の新しい知識を取り入れて伝達
・海外の数学や理科やIT教育の変化を教えていく。
・海外から講師を招き、最先端の知識を伝える講座を開く。
D児童生徒に課題解決する力をつけるためのスキル、また、管理職としての学校経営のスキルの習得
・教員が数学や理科でどのように児童生徒が力をつけたのかをリサーチした結果をNIEに報告し、講座に生かすことを行い、教科外指導も行う。
●研修の方略(ストラテジー)
@シニアマスタープログラム
・教員の要望に応じた短時間の様々な分野の研修をカスタマイズできるコース<12時間ほどのコース>
・学位を持っていない教員に学位を持てるように、また、学位を持っている教員に修士号を持たせるコース
Aリーダーシッププログラム
・管理職になるコース
・シニアティーチャー、マスターティーチャーの資格をとるコース
Bスペシャリストプログラム
・教育心理学やカリキュラムの専門家になって教育省に入るコース
・実際にこのプログラムを受講する人は少ない。

(人的ネットワーク)
・Aaron chong 氏(Assistant Head)

◆国立教育研修所での調査研究の様子
●「徹底した能力主義」は、教員に対する施策についても一貫している。競争による教育関係者のストレスへの対応など、問題点も出ている。今後の施策に注目したい。
●給料をもらいながら研修を受けることは、教員を志すものにとっては、目的がはっきりしているため、研修に対する取り組みも前向きである。「能力開発」による「人材育成」という方向が全ての施策に一貫していることは参考になる。
●教員のレベルアッブにつながる資格認定を研修機関が行っていることは参考になる。 




































(3)成康中学SENGKANG SECONDARY SCHOOL




































●概要
一般に中等教育では、3つのコースが設けられている。
@スペシャル・コース
・PSLE(小学校卒業試験)の成績の上位10%
・高度な母語のみならず、第3言語を学べる
Aエクスプレス・コース
・PSLEの成績の中位50%
Bノーマル・コース
・PSLEの成績の下位40%
・他のコースに比べてより実学的なカリキュラム
・学術コース及び技術コースに分けられる
成康中学は、1000人規模の学校で、エクスプレス・コースとノーマル・コースをもつ。
●教室、授業の様子
・各教室に、ホワイトボード、教師が使うコンピュータ、スクリーン、スピーカー、天井にはプロジェクターがあり、授業でコンピュータが使いやすくなっていた。
・MathRoom(数学の授業で使う専用の部屋)があり、5人ずつ5つの机に分かれて、配布された2枚1組のプリントの問題に取り組んでいた。各グループに1組ずつしか与えられず、班長の指揮の下で全員でこれに向かっていた。
・階段教室での数学の講義式の授業では、教師は実物投影機を用いて、手元にあるプリントやノートに、書き込みながら解説をしていた。生徒たちはプロジェクターの映像を見ながら授業を受けていた。
●特色
・新設校であり、教育省の意向を受け、課題学習に力を入れている。
・少グループでの学習、一斉多人数での学習、個別課題での学習など形態を工夫している。
・礼儀を大切にしており、来校者には必ず挨拶するようにしている。

(人的ネットワーク)
・MDM NG SHOK YAN 氏(PRINCIPAL)

◆図書室では、空席がないほどの多くの生徒たちが、テストに備えて、黙々と自習に取り組んでいた。
●日本の学校と積極的に指導方法などについての交流を望んでいる。国際的な視野に立っての指導方法を考えていくことを大切にしたい。






























(4)現職中学校教師との座談会

































●人物
エクスプレス・コースとノーマル・コース担当の現職の数学教師1名
●ITを利用した授業
・数学の授業でのコンピュータの利用方法
@簡単な内容で生徒にパワーポイントを用いてプレゼンテーションさせる。
Aグラフソフトを用いて、生徒一人ひとりのペースで、グラフを観察させる。
B問題を与えて、それを解決するためにインターネットで調べさせる。
・数学の分野によってコンピュータをたくさん使うところとそうでないところがある。コンピュータを用いて何かを発見させるときには1時間中使用し、教師がデモンストレーションして説明するときは、最初の15分程度使う。前者はコンピュータ室で、後者は普通教室で行う。
・IT基本計画にある「2人に1台のコンピュータを整備する」という目標があるが、実際にはそこまでいっていない。
●教員の評価
・主任によって「授業が効果的か。」「きちんと教えているかどうか。」などの観点が違う。評価の良い者は、学年の終わりに優秀教員として賞をもらえるか、行きたい学校に行くことができる。校長が教育省に伝え、教育省が人事異動を行う。優秀な教員は、ホームページに名前が掲載される。
●生徒の評価
・試験の成績をもとにした絶対評価である。評価規準は教師が話し合って決めている。
・3月と10月に2回学期末のテストを行う。
・タームごとにテストを行う。
・タームごとのテストは10%、学期末のテストは40%の割合である。

(人的ネットワーク)
・Mr. Zhuo Lai Xing 氏(中学校教諭)

◆座談会の様子
●シンガポールの教員はコンピュータを使えなければ研修に参加して、全教員が使えるようにしている。日本においても全教員がコンピュータが使え、コンピュータを利用して指導ができるようにするために、研修への積極的な参加が必要であると考える。


















(5)シンガポール・ポリテクニク





















●概要
1954年に開校された学校である。ポリテクニクの教育目標は、工業技術や商業に興味のある生徒に実習室や作業室での実地体験を中心とする実学本意の教育を施すことにより、シンガポールの産業界・商業界の需要に見合った、中間レベルの人材を育成することである。エンジニアリング、商業、マスコミ学、マーケケティング、グラフィック、製造デザイン、インテリア・デザイン、コンピュータ、看護学、レントゲン技術などの分野があり、生徒は自分の専門分野を3年間学習する。
●特色
・企業との密接な関係を持ち、缶飲料の共同開発などを行っている。
・インターンシップ制度を取り入れている。
・視聴覚機器と専門のスタッフが充実しており、生徒のプレゼンテーション能力の育成を支えている。
・技能を身につけるという明確な目標があるため、学習意欲が高く中途退学する生徒が少ない。

(人的ネットワーク)
・外国語学部日本語学科専任講師 平田 孝光 氏

◆シンガポールポリテクニクでの調査研究の様子
●ポリテクニクでは、企業との連携やインターンシップ制度など、社会に出てすぐに役立つことに重点を置いていることが参考になる。














(6)自治体国際化協会
(CLAIR)




























●CLAIRからの一言
日本と同様、自然資源の乏しいシンガポールにとって、最大の資源は「人材」である。しかし、日本と比べ国家が小規模なため人材育成に余裕があるとは言えず、これまではいかに効率良く実務面で優秀な人材を育成するかに重点が置かれてきた。その反省を受け、国民の間の多様化する価値観を背景に、ゆとりのある成熟した国家への変貌を試みている。
●クレアから見た今後の課題
@子供たちに厳しい教育制度
シンガポールでは小学低学年時から厳しい受験戦争のため、学業成績や将来の進路にストレスを感じる子供たちの話題が報道されるなど、厳しい教育制度が子供たちに与える悪影響を心配する声が上がっている。
A流出する頭脳
シンガポール人は世界的に見て高い学力、英語力を持っており、海外の大学、研究機関、企業へと進んでいくことは比較的容易である。海外志向である優秀な人材が流出しないよう、各省、各法定機関、民間企業は様々な奨学金を提供して優秀な学生の獲得に努力している。しかしながら、卒業後、留学先に留まったり奨学金提供元の機関・団体への就職を拒否する学生があとを絶えず、社会問題となっている。

(人的ネットワーク)
・自治体国際化協会所長 生嶋 文昭 氏
・自治体国際化協会次長 緒方 孝昭 氏
・自治体国際化協会    小林 玲子 氏

◆自治体国際化協会での調査研究の様子
●シンガポールの教育についての調査や研究もなされており、資料等の提供をいただいた。
今後も資料の提供等、協力をしていただけるものと考える。






















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